にわオタレビューブログ

にわかなオタクがアニメ、ラノベ、エロゲーなどのレビューをつづります。まったく関係ないこともつづります。

ヴァンパイア・サマータイム 感想

ヴァンパイア・サマータイム

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この世界に人間以外の人間がいたとすれば?
なおかつ彼らが同じ場所でありながらも違った世界の中で生活していたとすれば?
たとえば普通の人々が昼に行動するのと同じように、夜型の生活を送る人間。
といってもキャバクラや風俗のような水商売の話をしているわけではありません。昼夜逆転している大学生の話でもありません。
夜の時間帯こそが自分たちにとっての昼なんだという常識を持った、違う時間を生きる人間。
それが今作でいうところのヴァンパイアです。

 

 

ヴァンパイアといっても人の血を飲んで、人を自分の眷属にすることはありません。
牙が生えていて、太陽の下を歩けなくて、夜がメインの行動時間であること以外は人間と変わらないのです。
知り合うと思えば知り合えますし、遊ぼうと思えば遊べます。
ただ、それには通常の生活リズムを狂わせる頑張りをしたうえでしか成り立ちません。
通常なら知り合うこと自体がレアイベント。でも今作の主人公・ヨリマサは知り合ってしまいました。
ヨリマサは自分たちとは違う存在とどのように向き合えばいいのか、ヴァンパイア少女を前にして悩みます。
異種族恋愛の始まり始まり!

 

 

……と、長々と登場するヴァンパイアについて説明してきたうえで言うのも難ですが、この作品のヴァンパイアはヴァンパイアではありません。
異種族恋愛ものでよくみられるような身体的特徴の違いへの葛藤は、細かいディティール程度にしか扱われていません。
その本質はあくまで素直に自分をさらすことができない年頃の男女としての葛藤部分にあります。
感覚としては未来や過去などの違う時代を生きている男女の関係であったり、異世界と現代のような違う世界を生きている男女の関係であったり。
そういった作品群で得られるような切なさに似ています。
というか、もっと身近なものでたとえられますね。地球的に考えて日本の裏側にあるというブラジルの人との関係。
真逆の時間を生きる『人間』との恋愛。それがこのお話の本筋にあたるわけです。

 

 

今作を読んでいると、たびたび身悶えさせられます。
この作家さんゆえの抒情性を感じさせる圧倒的な描写力。
以前の記事に書いた『クズがみるみるそれないりになる(以下略』でもそうでしたが、キャラたちの葛藤がいちいちリアルで実在感があります。
今まで自分が生きてきた時間の中で、好きな女の子に取った態度や行動。あのときこんな感じに考えたなぁというポイントを問答無用にちくちくとついてきて、作品世界から離そうとはしてくれません。
今回はその傾向がより色濃く出ています。この作品を読んだ後、下手な文章を読むのがつらいと感じるほどに。

 

総括

娯楽ものとして明解な面白さがある作品とはいえません。
かなり地味で、着地も子供が大人に一歩近づきましたといったちょっとした成長。
でもむしろ、それがこの作品の魅力でもあります。
むず痒い恋愛物語に浸りたいときはこの作品は最強。