にわオタレビューブログ

にわかなオタクがアニメ、ラノベ、エロゲーなどのレビューをつづります。まったく関係ないこともつづります。

ようこそ実力至上主義の教室へ 感想

ようこそ実力至上主義の教室へ

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人は平等じゃありません。
生まれた環境の時点で有利にも不利にもなります。
しかし、最初に配分された環境がその後の人生すべてを分かつわけでもありません。
行動次第でいくらでも差は埋まりますし、追いつき追い抜くことも余裕でしょう。
人はそれを『実力』といい、『実力』の低い人であればあるほどに『実力』を身に着ける術から目をそらしてしまいがちです。
この物語は、人のせいにしないでちゃんと自分の怠惰と正面から向き合おうぜ! というものです。

 

 

今作で扱われている『実力』の物差しはとってもダイレクト。
お金です。
正確にはお金ではありませんが、お金的なものなのでお金と言っても差し支えはないでしょう。
『実力』の低いにやつらに支給されるお金はゼロという徹底ぶり。
これ以上ないくらいわかりやすい縮図ですね。

 

体制対反体制の学園ものというのは鉄板ですよね。
学園都市のディストピア的世界もまた鉄板。
そこに現実の価値観としても遠くない『お金』を引き合いに出したことで、お話の問題が今までの学園ディストピアよりも引き締められた印象があります。
ひと月に十万円支給しますやったね! と作中で言われた瞬間なんか特にわくわくしました。前述したとおり、『実力』の低いやつらに支給されるお金はゼロなんですよ。

 

これですよこれ。今までのディストピアものの反体制側が唱える特権への叫びは納得しつつもどこかふわっとしていました。
その『特権』ってどのくらいひどいんだ? ひどいのはわかるけど、その世界の中での話だしいまいち実感に乏しいなぁ……なんて思ったりして。
それでも無意識に受け入れてしまっていたのですが、この作品を提示された時にはっきりと意識させられたことがあります。
どんなにファンタジーな設定であっても、扱う問題が普遍的であったほうがわかりやすくて面白いということ。
それが今作でいうところの『お金』。
今まで見た中で最も読者に寄り添ってくれるディストピア系作品というわけです。

 

 

このライターさんには珍しく主人公は凡人。
友達が作りたくてもなかなか作れなかったり、身の振り方の不器用さを馬鹿にされたり、それはもう徹底した凡人というかそれ以下。
ちょっと体つきを褒められたり、偶然テストで全科目五十点ジャストなんかとったりもするけれど、どこからどう見ても凡人……じゃない!
やっぱり超人の類でした。今までの作品との違いは、主人公の高い能力を最後らへんまで読者に隠しているというところです。
といっても、ところどころで前述したような身体つきを褒められるなどの点で主人公の特殊性を暗示する演出はなされていてきちんとフェアプレイの精神にのっとっています。
今までの作品(『暁の護衛』『レミニセンス』)は主人公の強さが最初から明かされているうえで物語が進んでいたので比較的ストレスフルであったぶん、クライマックスの盛り上がりにややかける傾向があったのですが、
今作の一巻目の段階では一番普通の立場から始まって普通以下の人間扱いを受け、山場に立ち向かうときにも主人公の能力の高さに驚く人間は最低限の人数にとどまっています。
抑圧の積み上げがきちんとなされた状態のまま、ほんのちょっぴり解放した感じ。
この抑圧がどう解放されていくのか、今後の展開が楽しみですね。

 

総括

悪い体制がいて、負け犬の反体制がいます。
さらに主人公は優秀な能力を持っていて、それを存分に発揮しない理由を抱えていたり。
さらにさらに周囲はプライドの高い人間で囲まれていたりもします。
つまり、いつもの衣笠彰吾さんらしい作品でした。
彼お得意のスペクタクルな世界の広げ方にはやはり胸を躍らされずにはいられません。