にわオタレビューブログ

にわかなオタクがアニメ、ラノベ、エロゲーなどのレビューをつづります。まったく関係ないこともつづります。

サノバウィッチ 感想

皆さん初めまして。初投稿になります、さらだっくすと申します。
マイペースに何らかのレビューをつづっていこうと思います。
では早速ですが、記念すべき第一回目はエロゲー『サノバウィッチ』でお送りします。

 

サノバウィッチ

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あらすじ

保科柊史は『他人の気持ちを感じ取れる』という秘密を持っていた。
ある日、柊史はクラスメイト・綾地寧々が発情してオナニーしている姿を目撃してしまう。
ショッキングな事件を経て急接近する二人。お互いの秘密を共有する中、彼は知る。
寧々が発情してしまう理由と『魔女』と呼ばれる存在を――
『秘密』に振り回される少年少女が織りなす日常ファンタジー系ラブコメディ。

 

優等生的作品

キャラゲーの勇・ゆずソフト様のゲームです。どのルートも大変楽しめました。
目だった欠点がなく、とがった利点もない、キャラ系エロゲーのあるべき姿を示してくれるようなお手本のような作品です。
とにかくスキップボタンを押したくなるような退屈な描写がないところが素晴らしいと思いました。


思い出してもらいたいのは同社前作の『天色☆アイルノーツ』。
とにかく主人公以外の視点からの描写が多く、ヒロインたちの毒にも薬にもならなければ、コミカルな面白さのかけらもないシーンが全編に渡って至る所に置かれています。苦痛ですよね。
今作ではそれがありません。どのシーンでもきちんとのめりこんでいられる安定感を持っています。こんなにもプレイすること自体に苦痛を感じることができないエロゲーというのも珍しい……。

 

内容

パッケージとあらすじから不思議生物が出てきて、倒すべき悪が居るような『魔法少女もの』だろうと考えていました。ところが蓋を開けると、今回はそういった従来のものとは違うような、少しひねりを加えた『魔法少女もの』。
今作の『魔法少女』……というか『魔女』と呼ばれる存在について端的に説明すると、叶えたい願いを持った女の子が不思議生物と契約を交わし、善行を積んでポイントを一定以上溜めた末に願いを成就させるというシステムです。


魔法は攻撃するために存在するのではなく、かと言って善行を積むために使うことも無く、ただただ一度だけ願いを叶えるためにのみ使われることになります。
それだけであれば、少女たちは嬉々として可愛らしい格好に身を包み込み、気持ちよく善行を積み続けて円満に願望成就を果たせる緊張感のない状況が生まれてしまいそうですね。

 

しかし、そうは問屋が卸さない。今作ではそうはいかない理由づけもしっかりとされている安心設計。契約してから願望成就までの期間中、少女たちはペナルティを負うことになるのです。
このペナルティ――某魔法少女アニメでは契約前に明かされなかった負の要素が、あらかじめ契約前に提示してくれるという親切心を今作のき○うべぇ氏は持っていて。
魔法少女アニメの世界よりも安心して契約に臨むことが……もとい悩むことができるわけです。


……さて、悩むことができると書いておいて早速ですが、ウソです。この作品の魔女たちは契約の際に悩むことをしません。
そしてそれは非難されるべき部分ではなく、よくぞやってくれたと称えるべきポイントだと言えます。
というのも契約当時中学生(的な)の少女たちが、目の前にぶら下がった人参を前に想像できないようなデメリットを意識して踏みとどまる理性を果たして持っているでしょうか。
この短楽さこそが、普遍的な生活を送ってきて、どうしても叶えたくて仕方がない願いを持った子供たちの自然な姿と言えます。
そうした普通の少女たちが魔女になってから実感するペナルティ、願望をかなえた後に待っている後悔などと向き合う姿を描いていくのが『サノバウィッチ』の物語です。

 

物語

『願望をかなえた後に待っている後悔と向き合う』
これはメインヒロイン・綾地寧々様ルートで語られることになります。


寧々様が魔法少女になった理由――叶えたい願いは『過去に戻って両親の離婚をなかったことにし、やりなおしたい』というもの。
主人公・柊史氏と両想いになった寧々様は過去に戻りたいという想いをなくしたものの、願いを叶えるポイントはたまるばかり。
結局は寧々様の願いが叶ってしまい、魔法によってタイムリープが起こり、寧々様と柊史氏は離れ離れになってしまいます。


タイムリープして、両親が離婚する前に戻った寧々様。
魔法の影響か、前の世界では喧嘩ばかりだったはずの二人も平穏に関係を保っていました。しかし、寧々様は感じました。その二人の関係の歪さを。
前の世界で柊史氏や、友人たちと触れ合う中で人間関係はなるようにしかならないことを学んだからこそ、当時気付けなかったことに気付けた……いや、気付いてしまったのです。


寧々様はここで大きな後悔に苛まれました。
家族再建は叶えるべき願いではなかった。そう考えた寧々様はあっさりとタイムリープ後の家族関係の崩壊を受け入れます。
柊史氏と別れた上、本来の目的だった家族再建もならず、絶望の淵に立つ寧々様。
そんな彼女を支えたのは、前の世界と同じような道のりを辿れば再び柊史氏と巡り合えるのではないかと言う希望。同じ道のりを辿っていく作戦は途中まで上手くいったのにもかかわらず、徐々に元の世界からずれていきます。
焦った寧々様は大胆な行動に出て新世界の柊史氏をドン引きさせてしまう始末。
しかし最終的には、前の世界の柊史氏が用意していた秘策によって、寧々様は前の世界の柊史氏と再会を果たしてハッピーエンド。おめでとう寧々様。


タイムリープ前とタイムリープ後の間に一度タイトル画面が挟まります。
ここで一度間に挟んだ理由としては、物語の主人公が変わることをクリエイター側がわかってやっているんだよ、ということをユーザーに認識してもらいやすくするのが目的だと思われます。


物語の主人公と言うのは古今東西自ら動かなくては成り立ちません。そして、寧々様がタイムリープして後に残ったのは寧々様の記憶を失った柊史氏のみとなります。
これでは寧々様と柊史氏の物語を、柊史氏の努力で動かしようがありません。なので『自ら動く主人公というポジション』を柊史氏以外に交代する必要があるわけです。
ただ、物語の途中でそんなことしたら見てる側としては混乱するやら、共感できないやらの問題が起きるために普通はやらないこと。
しかし、今作ではそこを大胆な発想で成立させました。そう。エンディングを流して一旦物語の幕を閉じ、タイトルを挟んで別の物語として再出発させるという方法を取ったのです。


主人公を交代させるための取ってつけたようなエンディングなのかと言えば、そういうこともなく。間の終わり方に中途半端さを感じるということはありませんでした。
バットエンドの物語として、そこで切ってしまっても一つのお話が成立しているんです。思わず『上手い』の一言がこぼれてしまいそうでした。
そして柊史氏が最後に用意していた秘策について。
ただきちんと伏線が張られているというだけでなく、共通ルートの最初に描写されたシーンでの出来事を彷彿とさせるような……どころかまんまなのですが、
まんまだからこそ原点回帰したんだなぁというキャラたちが背負って来た苦労への共感に思わずホロリとしてしまった次第です。こういう演出は卑怯ですね。

 

キャラクター

このゲームには5人のヒロインが登場します。中でも自分がキャラクターとして気に入ったのは戸隠憧子様。

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いわゆる甘やかしてくれそうなお姉さん系のキャラクターなわけですが、そういったキャラにいつも感じていた完璧すぎて非人間性の強すぎる臭みのようなものがありませんでした。記号的に『実は甘えん坊』という要素を付加させているというわけでもありません。
演じておられる明科まなさ様の演技が憧子様の実在性に説得力を出している大きなファクターではないでしょうか。と言い切りたいところですが、それではここで話が終わってしまうのでもう少しお付き合いくださいませ。


時折ちらっと見えてくる自然な『テレ』――これが憧子様の説得力の源です。
『テレ』がちらっと入るだけなら、今までのエロゲーにもなくはなかったはず。
しかし、それらもやはりただの記号にしかなっていなかったんですね。それでは憧子様の持つ『テレ』の違いはどこにあるのか。
ずばり憧子様ルートで解決していく問題に直結しているのです。
当初は憧子様自身も無自覚な秘密が原因で、感情が一部欠落している状態にあり、問題解決後にその失われていた感情を取り戻す――本来の状態に戻ることになります。すると、今まで稀にしか照れることのなかった憧子様がちょっとしたことですごく照れるようになりました。


時折漏れていた憧子様の『テレ』は、彼女の本質だったんですね。
そう。戸隠憧子様とは、非人間性の強い、実は甘えん坊な完璧お姉さんキャラという『宇宙人』へのただの抗議活動家ではなく……物語まるごと費やした全否定するための存在。
そこまでキャラの根本からにじみ出た感情だからこそ臭みを感じなかったんだなぁ、とただただ納得と関心をするばかりでした。

 

欠点

退屈な描写がなく、お気に入りのキャラクターもいて、物語的にも面白い『サノバウィッチ』。
ただ、名作とは言えません。今までに生まれた名作群の中に並べると、やはり見劣りがあります。
なぜ『サノバウィッチ』は名作になれなかったのか?
考えられる要因は三つあります。
・不思議生物の在り方が中途半端なこと
・クライマックスの盛り上げ不足
・風土理論の無視


不思議生物の在り方が中途半端であるということについて
少女と契約を交わして魔女化させる不思議生物――彼らは人間になるために少女と契約を交わし、魔力を集めてもらうという目的を持っています。
人間に至るまでの発展途上な存在というわけですね。なので彼らは人間の持っている感情というものをいまいち理解しておらず、ルートによっては度々問題行動を起こしてヒロインたちを悩ませます。
が、問題はその『感情というものを理解していない』部分の描写。感情が理解できていない割に、善悪の判別ができすぎているんです。


一応設定の上では不思議生物たちが不思議生物たちが彼らなりに持っているルールを順守することを善とし、守らないことを悪としている形になっているのでその行動は理由づけがされています。
正当化はできているのですが、正当化してしまったが故に物語で描写される『魔女の悲劇』を演出していく上で、感情を理解しない不思議生物たちの存在がほとんど機能していません。
もったいない……! 『魔女の悲劇』を描くのに、不思議生物の立ち位置としてどちらが面白いかなど論じるまでもないでしょう。某魔法少女アニメのきゅ○べぇ氏まで突き抜けるべきだった。


クライマックスの盛り上げ不足について
寧々様ルートを取り上げてみましょう。
クライマックスは言うまでもなく、寧々様がタイムリープした後から。前述した大まかな流れだけ見ればすごくいいように思えます。
しかし、問題はその描写方法。寧々様が地に這いつくばり必死に前へと進もうとして、それでも発生する障害に打ちのめされるようなシーンになっているはずなのに、
寧々様の感情の揺れが弱すぎるのです。平坦に後悔し、平坦に焦り、平坦に前進する――


本当に後悔しているのか? 本当に焦っているのか? 本当にその希望を叶えたいと思っているのか?
プレイ中は違和感なく飲み込めるものにはなっているのですが、こうして振り返ってみるとそのものたりなさが目立ちます。
ああいったシーンでキャラの感情が本気で吐露できていれば、名作と肩を並べられたかもしれないのではないでしょうか。


風土理論の無視について
因幡めぐる様ルートを取り上げてみましょう。
名作に慣れなかった理由以前に、この方のルートは構成の段階で『ん?』と思わざるを得ません。


めぐる様は昔ベッドで寝たきりになるほど病弱でした。
それを友人がめぐるさまの健康を願い、魔女となって叶えてくれたそうなのですが、その友人の負ったペナルティというのが『記憶を失っていく』こと。
私生活に大きな影響をもたらすほどの大きな記憶喪失です。しかも、願望を成就した後にまで記憶喪失が続いている様子。
メインヒロインの魔女たちも真っ青なペナルティです。比較にすらないくらいほど悲惨です。
作中で彼女が救われることは無く、『その犠牲を無駄にしないように前向きに生きようね』で決着しています。


……いやいやいや、待ってください。ヒロイン以上にその友人のことが気になってしまいますよ! しかもほったらかしってどういうことですか!
そこに納得できる人はほとんどいないんじゃないですか!?
立ち絵すらなく唐突に出てくるサブキャラの設定が無駄に重すぎます。今の友人の在り方で行きたいなら、めぐるさまルート全体を使って語り切るべきでした。
しかし、それだと友人のルートになってしまうのでそうもいかないでしょう。
なので真に取るべき選択は友人の設定をもっとライトにして、めぐる様が彼女と直接向き合い解決する、というものになってくるはずです。
と、めぐる様ルートの全否定をしましたが、めぐる様はとてもかわいかったです。

 

総評

欠点として挙げたことは名作になりえなかった要因であって、現状のままでもとてもいいエロゲーです。
最近の作品の中ではベストだと思いました。
毎回何らかの魅力を感じさせてくれるゲームを送り出してくれるゆずソフト様。次回作がとても楽しみです。