にわオタレビューブログ

にわかなオタクがアニメ、ラノベ、エロゲーなどのレビューをつづります。まったく関係ないこともつづります。

陽だまりハウスでマラソンを 感想

陽だまりハウスでマラソンを

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あらすじ

元オリンピックの金メダリストランナーの老人・パウルが、ある日老人ホームに入居した。
つまらないレクリエーションに縛られ続けるホームに嫌気がさし、再び走り始めることに。

 

感想

また一つ、恐怖映画を突き付けられました。
基本は「老人だって、まだ人生の半ばなんだ」といったメッセージを、マラソンを通して語っていくような、一見して『いい話』。
ところが、今作はとんでもない毒を含んでいました。
ずばり、他の老人活躍映画では軽視されがちな『老人の弱さ』です。

 

映画だからこそ、作中でそれだけの無茶をやりとげて周囲を焦らせている様を、観客という絶対的他人視点で笑えていたのに、この作品は観ている人々を、焦りの渦巻く世界へと引っ張りこまれるような共感性があります。
老人ホームで同じことを繰り返しながら死を待つだけの日々。自らを疎んでくる家族。諦めてそれらを受け入れている周囲。
そして何も解決したい無いのに、それらの問題を共に向き合い、支え合ってきた最愛の人物との別れ。
これでもかと、泣きっ面に蜂をぶつけてきます。
言葉で並べるだけならこんなにも簡単なのに、映像でこれらを直視した時、自分は恐怖のどん底へと叩き落されてしまいました。
老いるとは、こういうことなのか! と。

 

大切なものを一つ一つ確実に失い、パウルに残ったのは『走り』だけでした。
ベルリンマラソンの中、一歩一歩踏みしめていく彼の姿はオリンピックで輝いていた伝説の人物などではなく、かといってただの老いぼれでもない。
それはまるで走るロボットでした。走ることが己を奮い立たせる唯一の存在理由なのだと雄弁に語りながら、ゴールを切ったエンディングは、なにかすごく尊いものを見せつけられたような気がします。

 

作り物ではない、現実的な本物のネガティブを描き切ったことで、ただの『いい話』でまとまっていないところに度肝を抜かされました。
とてもいい作品なのですが、感覚としてはインター・ステラー。二度と観たくないです。