にわオタレビューブログ

にわかなオタクがアニメ、ラノベ、エロゲーなどのレビューをつづります。まったく関係ないこともつづります。

三月のライオン 感想

三月のライオン

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物語

対人関係に苦手意識を持っている将棋のプロ棋士の少年が、将棋を通して対人力を身に着けていく物語。
この漫画は将棋ものではありません。将棋ものの皮をかぶっていますが、その実まったくの別物です。


主人公・桐山零氏は家族をはじめとするさまざまな人間関係に対して、一歩引いたところから触れる性質を持っています。
それは彼が育てられてきた義理の家族を、彼という異物が入ったことで壊してしまった。そのことに罪悪感を持っていることが原因です。
そんな零氏を支えてくれている唯一の味方は、職業にまでしている将棋だけ。
しかし、彼は決して将棋をすることが好きというわけではありません。
元々将棋を覚えたころは、将棋で父親をうならせた時のしぐさが好きで見てみたかったから。
義理の家族へと引き取られた時には、その家では将棋をすることが生きるために必要な処世術だったから。
今では高校生の身分で独り立ちするための手段――生きるために。
彼が将棋で大成したいと強い思いを抱くとき、そこには将棋で何かすごいことをしたいからではなく、処世術であったり、『自分の大切な人を助けるためにお金が必要だから』などの将棋外の動機ありきになります。
よって、この漫画は将棋界でのサクセスストーリーではなく、将棋によっておこるヒューマンドラマを描いています。


作中、彼以外の人物をピックアップした会が多々あります。
零氏の視点から見れば能天気に将棋を打っているような人物達。
そんな彼らも、今まで将棋をやっていく中でそれぞれがそれぞれの形の孤独を築いてしまい、そしてやはり将棋を持ってその孤独といかにして向き合っていくのかという話が展開されます。
……重い! とにかく背負っているものがみんな零氏に負けず劣らずどころか上回って重い!
そんな組立があったうえで、将棋に負けてしまったときなんかには目も当てられません。
その人物を取り巻く人々が心配げに眺めている横の視点で、孤独に共感を抱きながら読んできた身としては、引き裂かれるような思いに苛まれてしまいそうです。


しかし、負けてもなお彼らは結果を絶望することなく冷静に受け止めて、笑顔で次の対局の準備に向かいます。
それもそのはず。彼らにとって負けることは勝つことと同等に茶飯事で、負けとの向き合い方など当の昔に見出しているわけですから。
たった一話しか出てこないキャラなどもいるのに、人として強く成長しきっている姿をこうも巧みに見せつけられると、ついつい引き込まれてしまいます。
そしてこれは、作品全体を通して零氏にたどり着かせたい場所なのだろうと思います。

 

キャラクター

押しメンはずばり川本あかり様。とても結婚したくなるお姉さん。

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※画像中央の人

親のいない三姉妹家族の長女で、母親的な立ち位置から家族を支えています。
作中で結構な頻度で登場している割に、判明している彼女の情報というのはそんなにありません。
出てくる趣向も、痩せこけている人や動物を太らせることのみ。
読んでいていつのまにか三姉妹の姉であるということを忘れ、気づけば母親そのものとして見てしまっていたことも多々ありました。
それは彼女が作中で求められている役割が『未成熟な保護者』だからという部分に起因しているのだと思います。
抱えている問題も必然的に、母親がいないことによっておこる保護者としての葛藤。
終始人のために何かをしてばかりで、彼女は自分を出すことがまったくありません。
23歳という若さでありながら……一言で表すなら『自己犠牲の人』。
作中に報われていない人はたくさん出てきますが、それでもみんな前向きな向き合い方を見出しているのにもかかわらず、あかり様だけは諦めて親として生きています。
これからの救いを願って、応援せずにはいられません……!

 

総評

情感たっぷりな心理描写を持って孤独との向き合い方を見つけていく成長物語として、大変わかりやすく面白いです。
『将棋』だけでなく、普通とは違う道を歩むと向き合わなくてはいけないものがなんなのかを考えさせられました。
進路について悩んでいるタイプの方にお勧めしたい作品です。