バケモノの子 感想
バケモノの子
あらすじ
親が死に、親せきから逃げ出した少年・九太は渋谷で孤独に生きていた。
ある日、ある目的をもって歩いていたバケモノ・熊徹と出会い、弟子にならないかと誘われる。
迷いながらも、バケモノの世界までついていく九太。
熊徹は九太同様に孤独の身だった。それでも孤独の中で身に着けてきたという強さに魅かれてしまう。
九太は一人で生きる『強さ』を手に入れるため、バケモノの弟子になることを決めたのであった。
感想
名作の数々を順調に積み上げてきている監督・細田守の最新作。
人の動きによるアニメならではの快感を大切にしている彼らしく、しょっぱなからいきなり動きで魅せつけてきました。
ただの世界観説明でしかないカットのはずなのに、ダイソンも真っ青な吸引力。そこで演武をさせるだけでさっと興味を持っていかれてしまいます。
さすがは細田守……といいたいところですが、ここで開始早々にして今作の魅力は途絶えます。
あとは下り坂一辺倒。
全編にわたって描写の一つ一つが薄っぺらいため、徹頭徹尾展開に納得できない点が多いです。
例えば突然敵となってしまったあるキャラの闇落ちについて。そのキャラについての日常がほとんど描かれていないため、記号的に見せておいて『あとはいろいろ悟ってね』という投げっぱなし状態。
丁寧にくどくど説明しろというわけではなく、邦画的な見せ方にさえなっていないただの失敗演出だというのが問題なんです。
こういうスタイルが随所で見られてただただ不快でした。
ほかにも、作中でたびたびアレに転生することがまるでよきことのように描かれていますが、肉体も消滅して自由もなくなった状態になってしまうアレは『犠牲』以外のなにものでもありません。
今作を九太が生きる『強さ』を得るまでの物語というには、『強さ』に葛藤するシーンもまた薄い。ゆえに彼が最後に出した答えにもまったくカタルシスを感じることがありませんでした。
熊徹が犠牲になってまで九太を助け、そして導き出された『強さ』への最後の答えがあれではヒロイン以外の誰が得をしたというのか。
ちなみにこのヒロインもまた描写が薄すぎてまったく感情をのせることができませんでした。
いやいやいや。この映画は九太が『強さ』を見つける物語ではなくて、きっと九太と熊徹の親子の物語なんですよ!
……とも、口が裂けても言えません。
子供である九太の成長はもちろんのこと、熊徹も不器用な父親なりの成長を遂げている姿には思わずグッときそうだったのですが、九太がいなくなった瞬間元のダメ男に戻ってしまうさまを見ていると、どうやら彼は別に成長をしていたわけではないようです。
長年熊徹と共に悩みながら成長してきていたはずの九太も、結局熊徹やその周囲の人々を迷うことなくばっさりと切り捨てていくありさま。
結局、この映画が何を言いたかったのかさっぱりわかりません。前作三本と同じ監督とはまったく思えないほどひどい作品でした。
脚本を一人で書くのは避けるべきタイプの人だったんですね……。